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001 ミ ャ ン マ ー 日 本 語 熱

日韓共催W杯の影響で、日本に急激な韓国ブームがやってきた。そして、韓国語も人気を集めているようである。書店の外国語コーナーを眺めると新刊の韓国語会話の本が多数並べられ、テレビではワンポイント韓国語なるスポット番組の視聴率が伸び始めているらしい。イベントの開催によってその国の言語が人気になってしまうとは、何とも日本は平和で豊かな国である。

諸外国を見てみると、英語を学んでいる人々が多いのは想像にたやすい。その傾向はアジアでは特に強いようで、日本もご多分に漏れない。

しかし、ミャンマー(ビルマ)にいたってはそうとも言えないようだ。私の感じた限りでは、日本語を熱心に勉強している人々が大変に多いと感じる。それも特に子供たちだ。高齢の方々には器用に日本語を喋る方も多いが、それは自らの積極的な意思で勉強したものではなく、戦争という強制力が喋ることを強いたのである。

ヤンゴンの町を歩いていると子供たちから声がかかる。
 「ドコ、イクノ? アンナイシマスヨ」
彼らは平日には市場などで働き、土曜日と日曜日に日本語学校に通っているのだ。この日本語学校は現地の日本企業の駐在員が先生となり、比較的安い授業料で運営されている。それゆえに裕福とは言えない彼らにも学ぶチャンスがあるのだ。

彼らはいつもカバンを持ち歩いている。それは革のカバンであったりシャンバッグであったりとさまざまだが、その中身を見せてもらうと、観光客相手に売る商売道具の絵葉書に混ざって、必ず日本語の教科書が入れられている。ボロボロになったその教科書を開いてもらうと、手書きでビッシリとメモ書きがされていた。先生や日本人観光客から教わったことをミャンマー文字で書いているのだ。こちらの話す言葉に少しでも分からない部分があれば、彼らはとっさに教科書を開いて単語を探す。それでも理解できなければ「ソレ、イミハ?」と質問をしてボキャブラリーを増やしていく。

なぜ、彼らはそんなに真剣に日本語を勉強するのか?
 「ニホンジン ノ カンコウガイド ニ ナリタイ」
というのが彼らの将来の希望である。ミャンマー(ビルマ)を訪れる日本人観光客はまだそれほど多くはない。英語圏の欧米人の方が多いように思う。それでも、彼らが学ぼうとするのは英会話ではなく日本語なのだ。やはり日本人は金持ちに見えるのだろうか?

バガン遺跡群への拠点の町・ニァゥンウーのバスターミナル(と言ってもバラックの雑貨屋が並ぶ広場)の向かいに一軒の食堂がある。そこの兄妹のクドーとニニも日本語を熱心に学ぶミャンマー人だ。 初めてこの食堂で食事をしたとき、彼らが同じテーブルの向かいの席に並んで座り、こちらに向かってニコニコとしていた。
 (なんじゃ、こいつら?)
と思っていると、自分たちのノートを開いた。そこには、オリンピックの五輪マークのようなまん丸いミャンマー文字が並ぶ。その中の一行を探し出し、おもむろに口を開いた。
 「ゴユクリドゾォ」
 「はぁ?」
 「ゴユクリドウゾォ」
 「ああ、ごゆっくりどうぞ ね」
彼らは大きく頷いてさらに目を細めた。

通っている高校では英語の授業があるそうだが、クドーもニニも英会話は苦手のようだ。と言うよりも英語に関心が無いようだ。
 「ニホンゴ モット シリタイ」
彼らは日本語学校に通っているのではなく、自分のように店にやってくる日本人を先生にしてしまうのだ。彼らの宝物は先生となった日本人が置いていった名刺だ。
 「日本語おぼえてどうするの?」
 「オミセ ニ ニホンジン タクサン クル」
日本語そのものを商売にするのではなく、本業を助けるための勉強なのだ。
 「わたぁしぃは日本語を勉強してマス。日本語を教えーてぇ下さい」
と、流暢に言い寄ってくる現地人にロクなヤツはいない。
勉強熱心な人だなと思ってついつい気を許してしまうと、後でとんでもないことになる。気が付くとヤツらの良いお客さん≠ノなっているものだ。そして、それ位ならまだカワイイいものだが、さらに大掛かりな詐欺事件に巻き込まれるケースも多々あるらしい。

しかし、ミャンマー(ビルマ)だけは違うようだ。

彼らは純粋に日本語を学びたくて接近して来る。一語でも多くの日本語を耳にして口にすることが、上達の近道であることを実践しているのだ。彼らの勉強意欲には、ただただ脱帽である。我々がちゃらちゃらとお洒落な英会話スクールに通うのとはワケが違う。彼らには生活がかかっているのだ。いや、人生がかかっていると言っても過言ではない。

そんな彼らのためにも、日本語を巧みに操るボッタクリや詐欺が現れないことを切に願うばかりだ。
そして、中学校・高校、そして大学、さらには大金を払ってのスクール。何年も英語を学ぶ環境にありながら、英会話能力のまったく向上しない自分を恥ずかしく思う。

written by ぽから篤さん
photo by ぽから篤さん
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